(1)

おじさんヒマだわ〜。仕事がないとすることもない。おじさんは日雇いだからね。仕事がないと収入もないんだよ。だからね、こうなったら消費もしない。ビタ一文しないね。消費税も払わない。

もうアパートからでないのが一番だね。こんな歳して、なに引きこもってるのなんていわれそうだけど、こればっかりは仕方がないね。

でもね11月1日の、リレーなんとかの「ミミフラ」のライブにはいくよ。氷結3本持ってくの。夜の6時でしょ。どこだっけ?横浜だね。ひろいね。どのあたりかな〜。きっと寿町のほうだね。いくよ、必ず。


(2)

おはようございます!通勤通学たいへんおつかれさまです。耳なしフランケンです。今日もここジョイフル三ノ輪商店街にて辻立ち、朝立ちです。こうしてみなさんに耳なしフランケンの政策を、雨の日も、風の日も、はたまた雪の日も訴えてまいりました。おはようございます!通勤ご苦労さまです。耳なしフランケンです。

わたくし、今月もまたみなさまに訴えかける標語をつくってまいりました。これです。『いいじゃないか、こまかいことは!』。いかがでしょうか。先月の『徹底究明、汚職!』とは、やや矛盾するところもあるかと思いますが、今月はこれ一本でいこうかと考えております。あっ、ありがとうございます。耳なしフランケン、がんばっております。どうか今後ともご支援をよろしくお願いいたします。おはようございます!通勤お急ぎのところご迷惑をおかけしております。

えー、みなさまにお伝えしたい大切なお知らせがあります。11月1日、11月のつ・い・た・ちにですね、いよいよ、耳なしフランケンによる施政方針大演説会を大々的に、かつ盛大に開く予定でおります。場所はここ三ノ輪から少し遠いのですが、横浜です。横浜でやります。夜の6時からやります。横浜、6時。耳なしフランケンが、おおいに政治とカネについて語ります。横浜、6時。横浜、6時。どうか電車に乗りましたら、みなさまのスマートフォンに「横浜、6時」といれてみてください。どうかよろしくお願いいたします。耳なしフランケンです。おはようございました。


(3)

なにごにょごにょ言ってるのよ。あたしはね、あんたのそういうごにょごにょしたところと、食事のときにくちゃくちゃ音たてて食べるところが、昔っからほんとうに嫌だったの。

なんでこんな男がいいのかね。まったく、その女にノシつけてクール宅急便で送りつけてやりたいくらいだよ。なに笑ってんだよ。あんたのことだよ。よくそんななりでよそに女つくれたもんだよ。

だからなにごにょごにょ言い訳してんのよ。聞こえないっていってるの。あんたがいくらごにょごにょ言ったって、このLINEが動かぬ証拠じゃないか。ヤッてんじゃないよ、いい歳して。あしたも会うつもりだったんだろ。いやって、なにいってんの。ここにあるじゃないか。「明日、18時に横浜ね、チュッ。」って。なんだ「チュッ」って、スタンプ押せよ。馬鹿か。

横浜のどこのホテルだよ。あたしも一緒にいくからね、絶対。18時に横浜のどこなんだ。どこですか?どこかな〜?いいから吐け。ごにょごにょするな。


(4)

いや〜、前言撤回。すまんこってす。まさかね、まさかおじさんが住んでる日本堤ね、最寄り駅が南千住なんだけど、そっから横浜みなとみらいまで、片道895円だなんて、知らなかったのよ。これはどういうことなの、アベさん。アバウトで900円。往復でいくらよ。だからね、あたしはもう鴬谷まで歩くって駅員さんに言ったんだけど、それでも片道730円頂戴しますっていうからさ、こりゃもうお手上げですよ。氷結何本買えると思ってんだ!

だからすみません、11月1日は部屋にいました。だれもそれを証明するひとはいませんが、このあたしがいってるんだから間違いありません。

でもね、今年の入谷の朝顔まつりはよかったな〜、7月だけどね。今度「ミミフラ」もぜひ山谷でやってほしいもんだな。電車賃いらないってのがやっぱり一番だからね。よろしくね。たのんますよ。


(5)

あ〜あ、朝からツイてないな、今日は。どうしてくれようかな。

こんな日はとりあえず洗濯するのが一番さね。いい天気なんだからさ。なんでもかんでも突っ込んでガラガラまわしてさ、パリッと乾けば、ツキだってもどってくるよ。

でも参ったな。どうするよ。いくら洗濯したってヤバいものはヤバいじゃない。払えないものは払えないんだから。洗濯くらいじゃ、どうにもなんないよ。

フーッ、うまいぞ、畜生!そういえば、近頃はタバコ吸う奴もめっきり減ったね。電車とかじゃ、もう吸えないもんね。ちょっと前までは東海道線とか南武線なんかだと、みんなタバコ吸ってたんだけどなあ。

あ〜あ、だめだ。今日はもう徹底的にツイてない。呑むことに決めた。


(6)

え〜、ただいまご紹介にあずかりました耳なしフランケンです(笑)。本日は、たくさんのご来場、ご参加、まことにありがとうございます。

まずはじめにですね、みなさまのお手元にお配りしました紙資料をご覧になっていただきたいと思います。まあですね、パワーポイントとかあれば、なんか格好がつくところではありますが、本日は紙でご容赦いただきたいと思います(笑)。

そう、お気づきかと思いますが、この11月29日の案件!

最近はですね、なんでも面倒なことをまとめて「案件」とかいうんで、私もいってみたわけですが(笑)、その案件についてです。別に「案件」ってなんだ、なんて話じゃありませんから、どうかご安心を(笑)。

あっ、すみません。後ろのかた。指さしてすみませんが、ええ、あなた。あなたです。どうかその紙資料であおがないでください。きょうび、ウチワと間違えられると大変なんですから(怒)。はい、どうかやめていただきたいんです、あおぐのだけは。だからあおがないでくださいっていってます(苛)!

なんだ、あなたは!私が今日まで、こうして苦労をして築きあげてきたものを、じぇんぶ壊そうっていう、そういうつもりなのか(怒)!

はい、そうですね。ええ、そうしていただけると。ご協力、ありがとうございます(笑)。いや、べつに怒ったわけじゃないんです。だからどうかですね、みなさまにもお願いします。

ア・オ・ガ・ナ・イ。はい、ご一緒に。アオガナ〜イ(笑)。


(7)

ん〜〜、満足。いかったよ。やっぱ、この間の横浜バトル以来、くるものがあるね。もう怒ってないよ。ほんとだってば。はい、タバコ。えっ、お風呂いれてくれるの?じゃ、それ、あたしにちょうだい。よろしく。たまったら呼んでね。あたしもはいるから。

ふ〜。アハム、ガッ、チャーイ、この腐敗した〜。リモコン、リモコン。あった。これエアコンか。こっちね。ほい。いきなりグロいね、アダルトかよ。シャワー浴びてるあいだ、盛り上げてたな。バレバレだよ。いらん。もういっぱいだし。

ふ〜。アハム、ガッ、チャーイ、この腐敗した〜世界におとされたあああああ。ドゥア、リーボンサッチャ、フィール。携帯チェックだよ、まったく油断もすきもありゃしない。あれ、なにこのチラシ。ライブかなんかだな。ん、11月の29日って、やだ、あたしの誕生日じゃない。これに誘ってくれようってのかな。いいとこあるね。シフトどうなってたっけな。

ふ〜。おっ、だいじょぶじゃん。オーケーよ。リーボンサッチャ、フィール、こんなものの、ためにうまれたんじゃなああああい。

(8)

うわっ!やべえやべえ。また寝ちゃったよ。この季節はね、風呂が気持ちいいもんだから、つい寝ちゃうな。しかし息が苦しくなるまで起きないってのも、問題ちゃー問題だな。

よく言うじゃん「咳をしてもひとり」だなんてね。もし、もし仮にだよ、おじさんが風呂で寝ちゃって溺死〜なんてことになっても、だれも気がつかないもんな。月末に大家の野郎が取り立てにくるまで、もうかなりブヨブヨだわな。

たまにはねえ、足がこう、うわっとのばせる風呂に入りたいもんだ。これから銭湯にでもいくかって、もう今日はいいか。

しかし、まったく思い出すだけで腹がたってくるな。行くだけで二千円くれるっていうから行ったのに、あんな怒ることはないよな。「ウチワじゃないんですから!」なんて。もう声が裏返っちゃって。だれもウチワだなんて思ってないよ。考えりゃわかるだろうよ。暑かったんだから、パタパタしただけじゃないの。

まあ、あんなのは今度も受からんな。あんなのが区議会にうってでようってんだから、この国の世紀末ももうそこまでかもしれんよ。

どんくらい寝てたのかな、気持ち悪くなってきた。


(9)

完全無所属の耳なしフランケンです。区の放送とはいえ、このような電波を通じて、わたくしの訴えを聞いていただけるのは、なんともうれしいことであります。

さて、唐突ではありますが、区民のみなさまにとって、区議会とはいったいなんでしょう?なんでしょうか。5、4、3、2、1。はい、そうですね。世界です。区議会こそは世界そのものであると。もちろん、小さな世界です。そうですとも。イッツ・ア・スモール・ワールド!こう見えてもアメリカ留学の経験もある耳なしフランケンです。

その区議会が、つまり世界がですね、いまたいへんな危機にあります。なぜ危機なのか。答えは火を見るより明らか。正義のヒーローがいないからです。では、どこにヒーローがいますか?はい、そう、いまあなたの目の前にいるではありませんか。耳なしフランケンです。だからお願いしたいんです。危機に瀕したこの地球と区議会に、どうかヒーローを送り込んでいただきたいのです。

もうおわかりですね。地球の危機を救えるのは、区民のみなさまの清き一票なのです。その一票をですね、どうか、どうかですね、このヒーロー、耳なしフランケンに投じてやってはくれませんか。どうか、セイ・イエス!セイ・イエス!区議会が、地球がたいへんです!ウ〜ウ〜ウ〜!完全無所属です!耳なしフランケンでした。


(10)

今日ね、おじさんのなかで、なにかが確実に終わったよ。もちろん健さんはいなくならないけど。映画館に行けばいるわけだしね。

でもね、百年泣かなくてもいいけど、今夜だけはね、泣いてもいいよね。もうおじさんは、お風呂で寝ちゃって死んじゃっても、あんまり悔いはないかもしれないよ。氷結呑んでジタバタしても、高倉健は死んじゃった。死ぬってなんだろう。「戦後」のなにかが決定的に終わったのかな。

おじさんは、この先も生きていていいのかな。なんだか来月は選挙らしいね。

さようなら。さようなら。


(11)

ん〜、本日も快晴なり!このブルっとくる寒さも、またよし!なんかこう、ツラの皮もピッと張って、背筋ものびて、気持ちがあらたまるんだな。こうして伸びすると、しみじみと自分がね、新しくなるのが、わかる。わかるよ。

おじさんはもう、新しいおじさんだ。ミミフラも『新しいおじさん』なんて曲でも作ってくれないかな。新品のおじさんがさ、バリバリ働くようなやつ。モテちゃったりね。いいね。自分でいっておいてなんだけど、新品のおじさんっていいよな。もう中古とはいわせないよ。パリッと新品だ。自画自賛、陰影礼賛、おまわりさんにご苦労さん、なんてね。まさに心機一転だな。よーし、働くぞ!


(12)

あちゃー、まいったな。あいつ、なんで夕方なのにいるんだよ。耳なしフランケン!あいつがいるんだったら、待ち合わせを駅前にするんじゃなかったよ。ただでさえ毎朝毎朝うるさいんだから、バイトやる気失せるつーの。

カオルったら、もうはやくこないかな。はよこんかと送信、完了。あー、うるさい。もう、声が枯れちゃって、なにいってんだかわかんないよ。「みみなじぃ、フランゲンでごぢゃいまずぅ」って、完全にどうかしてるな。

そうか、選挙か、わかった。選挙が近いんだな。だからこんな時間に耳なしフランケンか。有権者のひととかも、もういい加減あいつを当選させてくださいよ。たのんますよ。当選すれば、朝の駅前が静かになるんだからさ。

よく聞き取れないけど、なんか11月29日にやるようだな。ふーん、悪いけどあたしはデートだよ。デートなんです。ざんねんでじだ、みみなじフランゲンざん。どええとなんでず。

カオル、はよこんか!


(13)

はいはーい、いまいくよ〜。なんてね。電子レンジにいちいち返事してるのは、きょうびおじさんくらいのもんだよ。うあ、あちっ!この味噌汁、持てないくらい沸騰してるな。ふきんはどこだ。この雑巾みたいなんでいいか。これでそおっと、つかんでと。やだな、はしっこが浸かってるよ。ま、いいか。

しかしここまでやらんでも、ちょっと気持ちあっためてくれればいいんだけどな。なんせ火が強すぎるよ。壊れちゃったのかな。買い換える金は、なしと。

しかしバブルのころはよかったな。ピンクチラシをもう貼りまくってね、ずいぶん稼いだもんだよ。上野、鶯谷、浅草に千住まで、ぜ〜んぶの電話ボックスにペタペタやってね。キレイだったな。あんときは電話しにはいると、なんか誇らしげな気持ちになったもんだ。

いまじゃ電話ボックス自体がないんだもんな。働きたくても仕事がないんじゃね。新しいおじさんもかたなし‥はいはい、いまでますよ。

もしもし。あっ、田所さん、いつもお世話になってます。はいはい、選挙ですね。わかってます。何人くらいですかね。はい、承知しました。今回は一人あたまどれくらいでやりますか?ええ、はい。がんばりますよ。まかせてくださいな。じゃ、一時間後に「ホノルル」の二階で待ってます。のちほど。

よ〜し、仕事だ。味噌汁飲んで、働くぞ!


(14)

ケンちゃんさあ、おじさん、ほら、ケンちゃんがすすめてくれたアレ、あるじゃん、ヘースブックっての、あれ、やめようと思うんだよ。そりゃヒマだからさ、時間つぶしにはいいんだけどね。ほら、いろんな知らないひとがさ、「おまえの歯みがきは間違ってる!」とか「シャンプーはするな!」とかさ、「放射能が降ってきた!」とかね。もうおじさんは混乱しちゃうんだよね。いままで曲がりなりにもさ、こうして生きてきたってのに、いまさら「みんな間違いだ!」っていわれてもね、もう無理だよ。だって取り返しがつかないんだもん。それにおかしいよ。公園でさ、ちっちゃいのが遊んでんのに、母ちゃん電話ばっかいじってさ。死んだ健さんなら、きっと怒っちゃうと思うんだ。

だからさ、おじさんもね、健さんが死んで、新しいおじさんでいこうって決めたからには、なにかね、こうパーっとやらないとね、いかんでしょ。心意気を見せようじゃないのってさ、荒川にこの電話を投げ込んでやろうと思うんだけど、どうかな。

そうそう、これね、選挙。今度のは区議会だってさ。まあどうでもいいんだけど。そんでね、またさ、ケンちゃんにも二百人くらい頼みたいのよ。今回はこんだけでなんとかしてよって、さっき田所さんからもらってきたの。これが封筒ね、この紙と一緒にいれてって、まあいつもとおんなじだけど、念のためね。はいる?カバン。じゃ、終わったら、電話ちょうだい。ケンちゃんの分、わたすから。でさ、久しぶりに呑みにいこうよ。あの彼女も連れといでよ。じゃね、たのむね。


(15)

あー、あー、チェックチェック、ピーーー!失礼しました。あー、あー。いいかな。

おはようございます!連日の通勤通学たいへんお疲れさまでございます。耳なしフランケン、本日はですね、みなさまに特別のご報告と御礼を申し上げに、ここジョイフル三ノ輪商店街の晴れ舞台に立っております。

思い起こせばこの六年間、来る日も来る日も、ここジョイフル三ノ輪商店街にて、耳なしフランケンの政策と、区民のみなさまに、この身を捧げる覚悟を訴えて参りました。それがやっと実を結んだのでしょうか、昨日の選挙、ほんとうに接戦ではありましたが、最後の一議席、この耳なしフランケン、なんと滑り込むことができたのです!

深夜にもかかわらず多くの支持者のかたが、事務所に来てくださって、「バンザーイ、バンザーイ、耳なしフランケン、バンザーイ!」との言葉を頂戴しまして、はい、はっきりとこの耳にこびりついて……。

たいへん失礼しました。いろいろとですね、つい感極まってしまいました。とにかくです。今回の選挙を、わたくし耳なしフランケンは「背水の陣」としまして、すべてを投じ、そうです、私財もなにもかも、文字通りすべてを投げうってのぞみました。これでもうすっかり文無しです。失うものは何ひとつありません。裸一貫!これからは、裸のまま区議会に乗り込んでいってですね、精一杯みなさまのために仕事をさせていただく所存です。

おはようございます!お疲れさまです!当選しました!耳なしフランケン、感謝、感謝の朝立ちをしております。はい?なんです?ちょっとって、私はちゃんと許可とってますよ。邪魔しないで‥。ちょっとやめてくださいよ。なんですか、あんたたちは!


(16)

ねえ、もうさ、あたし、部屋引き払ってこっちで住もうかな、なんて。そう?やっぱ六畳一間じゃ、ふたりは無理か。昭和みたいだもんね。じゃさ、じゃさ、新しいとこ借りちゃうとかってのはないかな。なんかふたりの力を合わせれば、できなくもないんじゃない?あれ、なんで急にテレビつけんのよ。朝のニュースってか。聞いてんのかな、あたしの話。うまっ!やっぱ調理師免許持ってるだけあって、このオムレツ美味しいねえ、毎朝たのみたいくらいだけどね。

あれっ、ちょっとなにこれ。やだ、耳なしフランケン!ねえねえ、耳なしフランケンが逮捕だって。マジか。ほら、いつも三ノ輪の駅前でうるさいやつ。公職選挙法違反って、あいつなにやらかしたんだ?ちょっと音おおきくしてよ。へえ〜、カネばらまいた。ばらまいたか。飲食店や千住の労働者って、「ホノルル」のマスターだいじょぶか?あれっ?このおじさん、知ってるひとじゃん。ねえ、一度あたしも「俺のホルモン」で会ったことあるよね?おじさんも一緒にパクられてるよ。なんだこりゃ、たいへんだ。でもなんか笑っちゃう。なんでだろ、知ってるひとがパクられてるのにね。

どうしたの?まさか〜、なんて。えっ?なにマジ青くなってんだ。ちょっとねえ、まさかあんた、これに関わったりしてないでしょうね!えっ、なに?なんだって?ごにょごにょして聞こえないよ。どうなんだよ、えっ?だから、ちゃんと‥。ハ〜イ、って、あたしが返事したらまずいか。ケンちゃん、だれか来たよ。だれだろ、こんな朝はやくに。


(17)

は〜い、ウインナーコーヒー、ホイップ大盛り。しっかし疲れた。昨日あたりからやっと落ち着いたところだよ。毎日毎日、警察だの雑誌だのが来てさ、ほら、うちの二階を田所さんや組の人たちに使わせてたじゃない。だからしつこかった〜。俺はね、めんどくさいから、正直に「もらいました」って答えたんだけどね。ほかの客のことはチクらないよ、もちろん。なぜかおとがめなしだもんね。その代わりなのか、二階に出入りしてた連中のことを根掘り葉堀り聞かれたけどね。しまいにはクスリだの銃だのっていいだすから、いい加減にしろっていってやったんだよ。こちとら親父の代から喫茶ひとすじ、何十年って商売やってきてんだ、そんなケチつけられる覚えはねえよってね。ポリ公のやつもビビってやがったよ。

あの議員になりそこねの耳なしフランケンと田所さんは当分あれだろうけど、おじさんとケンちゃんはそろそろ出てくるんじゃないかな。えっ、ひょっとして保釈金とかいるの?まいったな。ふたりともゼニ無しだから出れないかもな。こうなるとビンボー人はつらいな。ソフトバンクの孫さんとかだとすぐ出れんだろうな。

どう、みんなでカンパするか?保釈金ってどんくらいかな。おじさんが一万円くらいで、ケンちゃんが八千円くらいかな?たぶん。ねえ、そこの箱、三角くじで使った赤と黄色の紙の箱あるだろ?それとってよ、募金箱にするから。よーし、これがほんとの歳末助け合いだ。


(18)

なんていうか、たいへんお世話になりました。はい。もうこれからは心を入れかえてですね、まっとうなおじさんとしてですね、まっとうな道をまっすぐとこう歩いていこうかと、ええ、はい、もういいですか。それじゃ、行きます。ありがとうございました。

おまわりさんにご苦労さんと。ふー、やっぱシャバの空気はうまいな。そしてまたこの、いい天気だもの。腹もへったし、散歩がてら五反野の駅まで歩いて、「珍來」でがっつり、ラーメンセットでも食べるとするかな。

そうそう、ケンちゃんどうしたかな。もう出てるんだろうけど。検事さんに「何言ってんのかわからん!」なんて怒られたりしなかったかな。電話してみよっと。

あ、もしもし、ケンちゃん、新しいおじさんだよ。やっぱり先にでてたね。よかったよかった。っていうかほんとにごめんね、割のあわないことさせちゃってさ。で、いまどこよ。「ホノルル」?ほんと?ありゃー、じゃマスターにも謝っておいてよ。出さなくていいから。ほら、電話じゃなんだからさ。これから五反野でメシ食ってさ、それから「ホノルル」に顔だすってマスターにいっておいて。ケンちゃんも待っててよ。えっ、なに?カンパ?なんの?おじさんたちの保釈金に?ありがたいね。泣かせるね。でもさ、不起訴だからいらないよって言ってやってよ。いやいや、だめだめ、それは受け取れないよ。おじさんの股間にかかわる、なんてね。それじゃね。あとでね。待っててよ。


(19)

いまの電話、おじさん?小菅から?そう、いま出てきたんだね。ふーん、そんなこといってたの。なんか水くさいね、こっちでピラフでも食べればいいのに。恥ずかしがってんだな。まあ、ワンクッションおきたい気持ちもわからなくもないけどね。

それでね、ケンちゃん、さっきの話の続き。キクちゃんのことだけどさ、俺が思うにね、ぜったい大丈夫、きっと戻ってくるから。キクちゃんだって、そうそう行くところなんてないんだからさ。えっ、書き置きあんの?なんて書いてた?見せてよ。しかし書き置きっていうのも思いっきり昭和だね。きっとケンちゃんのスマホがおまわりに没収されると思ったんだね。メールがダメなら書き置きだって考えたんだよ。かわいいとこあるね。

へー、意外と字きれいじゃん。とはいえ漢字すくないね。ほぼひらがなのみだな。ふ〜ん、こりゃキクちゃん、よっぽど切羽詰まって書いてるな。探さないでくださいが「さがなさいでください」になってるもん。

まあ、もうちょっと待っててごらんよ。こういっちゃなんだけど、キクちゃんももう47だし、それにさ、あの体格じゃない。ケンちゃんしかいないんだから。だいたいね、ケンちゃんが煮え切らないのがいけなかったと思うよ。それでさ、キクちゃんふてくされてたもん。おまけに目の前でケンちゃんが逮捕されちゃったわけだからさ、もうわけがわからなくなってるんだよ。だからさ、「結婚しよう!」くらいのメール打ってあげなよ。5分後には後ろのドアがバーンとあいてさ、キクちゃん涙ながして立ってると思うよ。間違いないって、やってみ。


(20)

ただいま〜。ありゃ〜、メチャクチャだな、こりゃ。おまわりさんもガサ入れご苦労さんだけどね、終わったら元どおりに片付けてくれないと。まあもともと散らかっていたんだけどね。足の踏み場もないとはこのことだな。しかしエロ本もこうしてぶちまけられると、なんか身も蓋もないね。なんか急に恥ずかしくなってきたよ。うわっ、大切な「ミミフラ」のCDも!こまるな〜、聞けなくなったらどうすんの。また西新井まで買いにいかなくちゃって、わかってんのかな。

よっこいしょっと、えーと、どうだ!あったあった。さすがにサランラップの筒の中までは見ないわな。おじさんのヘソクリは無事でした。これ持って「ホノルル」に行って、ケンちゃんに一杯おごってやらないとね。しばらく小菅で健康的な生活を送ってきたからね、「俺のホルモン」で、今日はガッツリいくとするかな。片付けはその後だな。でも待てよ、これじゃ、帰って寝れないな。酔っ払ったら、めんどくさくなるだろうから、いまやっとこうかな。

こうやってみんなはしっこに押しやって、ずずいずいずいと。とりあえず真ん中に布団がしけるくらいはと。もう足でやっちゃえ。こうして、こうしてと。おお、できたできた。なんか部屋がもんじゃ焼きみたいになったけど、これでよし。いってきま〜す。


(21)

お〜い、もういいよ。降りておいでよ。コーヒーいれるからさ。階段気をつけてよ、狭いから。

大丈夫だって、いま帰ったところ。あの徳山荘のおじさんが来てさ、誰って、ほら、一緒に捕まったおじさんだよ、キクちゃんも会ったことあるでしょ。さんざん選挙のことで謝ってさ、それでコーヒーも飲まないで、ケンちゃんを連れて行っちゃったよ。

はい、ホイップ大盛り。そんでどう、ケンの奴からメールきた?え、まだ?あれだけ言ったんだけどなあ。ケンちゃんのそういうところがダメなんだよな。松戸市役所の「すぐやる課」とか見習うべきだよ。えっ、「すぐやる課」知らないの?俺もよく知らないけど、なんでもすぐやるんだよ、きっと。

俺としてはね、この店で知り合ったふたりなんだからさ、うまいこといってほしいんだよね。いわばさ、ケンちゃんとキクちゃんは「ホノルルカップル」なわけじゃない。だからさ、こうなったらもう、意地張ってないでキクちゃんから「どう、元気?寒くない?」くらいのメールだしてもいいんじゃないかな。そう?じゃ、もうちょっと二階にいなよ。いいって、大丈夫。キクちゃんの気がすむまでいていいよ。

そんでさ、話かわるけどさ、ほら、みんなで保釈金カンパしたじゃない。三角クジの募金箱。これが八万くらいになったんだよ。ね、結構びっくりでしょ?ところがさ、保釈金がいらないことになったって、おじさんもケンちゃんも頑として受け取らないんだよ。こっちとしてもみんなから集めちゃったんだからさ、どうにもなんないよって話で、ああだのこうだのしてたらさ、急におじさんがさ、「いいことがある!」っていいだしたんだよ。おじさんの真似するね、見てて、こんな感じ。

「ミミフラだよ!ミミフラに歌ってもらおうよ!この金でギャラにして『ミミフラホノルルライブ』をやろう!カンパしてくれたみんなを呼んで無料ライブにするんだよ!」

どう?似てた?そうかキクちゃん、おじさんのことあまり知らないか。まあとにかくそんな感じでね。うちの店も無駄に広いからいいかもね。いまごろ「俺のホルモン」で作戦会議してると思うよ。どう、ちょっと行ってみたら?


(22)

プハーッ。うまいねー。「とりあえず生!」っていうけど、最初に言ったひとはほんとに偉いね。尊敬しちゃうな。「ホルモンこそが男のロマンだ!」なんてね。ケンちゃん、魯山人って知ってる?ちがうよ、ロシア人じゃなくて、日本人だけどね。魯山人。そういうひとがいて、いろいろと食うもののことをあれこれいったとかいわないとか、そんなこと。

でね、ここに、七万八千二百三十二円あると。そこからここの飲み代とか経費とかを引いて、ずばり消費税八パーセント込みで五万ジャスト。これでミミフラに出演交渉をしようと思うんだよ。うまいこといくかどうかわからないけど、明日さっそく西新井の「ムーディ」のお母さんにね、たのんでみるつもりだよ。

でね、ケンちゃんにはさ、この残った二万で、マイクだとかスピーカーだとかを調達してもらいたいんだよ。それと、ちょっとしたステージの飾りものなんかもね、用意してさ。それとチラシも作らなきゃいけないな。どうケンちゃん、二万でなんとかなるものかな。ちょっとくらいならオーバーしてもいいよ。ほんと?なんとかなりそう?アテはあるの?悪いね、いつも無理ばっか言っちゃってさ。今度は逮捕されないから。あれ、笑ったね。飲んでよ、たくさん。ぐっとやってよ。すいませ〜ん!食べ物。えーとね、ポテトサラダと厚揚げ、それと俺のホルモン盛り合わせ。とりあえずそんなとこで。あっ、あと生をもうふたつね。

なんかさ、おじさんさ、新しくなったばかりで、いきなり出鼻くじかれちゃって、ちょっと拘置所じゃ落ち込んでたりしたんだけどね。暇だったじゃない。時間ばっかりあったでしょ。だからさ中でね、詩を書いてみたんだよ。うん、詩、ポエム、歌詞ね。「これからの」っていう題なんだけどさ、おっ、とよちゃんサンキュー、ここでいいよ、真ん中に置いて。ケンちゃん、ポテサラ食べてよ。ここのうまいから。

それをね、おじさんが書いた「これからの」をね、ミミフラが歌ってるところを想像したりしてたんだよ。でね、そのあたりの熱意とかも「ムーディ」のお母さんに一緒に伝えてさ、みんながくれたせっかくのチャンスなんだからさ、なんかこう、パッとひと花咲かせたいんだよね。そうじゃないとさ、なんていうの、おじさんがこの世に生まれてきた意味がないような気がしちゃってさ。ちょっとオーバーかな。どう思う、ケンちゃんは。そう、ありがとね。じゃさ、焼こうよ、どんどん。もうどれからでもいいよ。全部のせちゃう?

(23)

「ムーディ」のママから話を聞きました。出演のご依頼まことにありがとうございます。もちろん喜んで歌わせていただきます。日時はクリスマスイブの夜でいかがでしょうか?機材などは準備していただけるということで、私たちふたりはカラオケのはいったデータと、念のためCDを持参してうかがいます。いちど下見をかねて「ホノルル」にお邪魔しようと思っています。ふらっといきますので、そのあたりはお気遣いないようお願いします。

それと「これからの」を拝見しましたが、すごくいいですね。この詩に歌をつけてみようと、西新井の猪俣公章こと富岡のぼるさんにお願いして作ってもらっています。ぜひクリスマスイブまでに練習して歌いたいと思っていますので、どうか楽しみにしていてください。

それでは、みなさまにお目にかかるのを楽しみにしております。

ミミフラ(ミミ梶田とフランソワ・マロン)


(24)

『これからの』

すねの傷なら 十や二十

こうして生きてきたのだもの

分かれ道では ぬかるみを

歩いてしまうわたしです

はねた泥さえよけずに来たわ

綺麗でなくて ごめんなさい

こうしてあなたに会えるのが

わかっていたなら 横日傘

言えぬことなら 十や二十

だましだまされきたのだもの

寒い路地では 暗がりを

求めてしまうわたしです

煤けた色さえ拭わず来たわ

優しくなくて ごめんなさい

こうしてあなたに会えるのが

わかっていたなら 薄化粧

恋の数なら 十や二十

女で生きてきたのだもの

朝焼け宿では ぬくもりを

抱いて眠るわたしです

忘れることさえできずに来たわ

未練残して ごめんなさい

こうしてあなたに会えるのが

わかっていたなら これからの

はねた泥さえよけずに来たわ

綺麗でなくてごめんなさい

こうしてあなたに会えるのが

わかっていたらなら 横日傘

作詞 新しいおじさん

作曲 富岡のぼる

歌唱 ミミ梶田とフランソワ・マロン


(25)

おじさんさあ、やっぱりこうしてふたり仲良くむつまじくってのはいいもんだね。ケンちゃんの孤軍奮闘ぶりに、見かねたキクちゃんがさ、たまらず二階からでてきちゃうあたりなんか、まるで落語の人情話みたいだったよ。

すごかったんだよ、あのときさ、持ち上げたスピーカーが倒れてきて、ケンちゃんが下敷きになって、大きな音がしたんだよ。ドーンってね。ダダダっとあわてて階段を降りてきたキクちゃんがさ、それを見て、「あんた!どうしたの、大丈夫かい!」ってね。

あたりを振り返るケン公。「おっ、なんだい、その声は、いなくなっていたおキクじゃねえか。おキク、いったい全体どうしてここに?」「あたしゃね、あんたにね、今度ばかりは心を入れかえてもらおうと思って、この店の二階に身をおいて、じっと息をひそめていたんだよ。」「なんだって?そうかい、それは心配かけたな。おいらもおキクがいなくなってはじめて、おまえの大切さが身にしみていたんだよ。」「あんた、それほんとうかい?」「ほんとうだともよ。さっ、おキク、おいらに乗っかったこのスピーカーをどけてはくれまいか。」「おやすい御用だよ。」なんてね、半分は俺が作ったけど、だいたいそんな流れだったんだよ。泣けるでしょ。

しかし「ホノルル」も、ケンちゃんとキクちゃんの飾り付けのおかげで、すっかりクリスマス風情だね。もともと親父が戦後間もなくはじめたころは、半分キャバレーみたいなもんだったからね、こうして片付けてみれば、小さなステージまでできちゃってさ、あとは主役を待つばかりなりってね。

どうだい、おふたりさん、そろそろ休憩にするかい?コーヒーいれようか?まだいい?こりゃ、無粋でござんした。

おじさんはもう一杯飲む?これからポスター貼りとチラシくばりかい。がんばってよ。そうそう、今朝、田所さんから電話があってさ、うん、出てきたんだよ。それでね、ミミフラコンサートのことも伝えておいたよ。おいでよって声かけといた。耳なしフランケンも誘ってさ、タダなんだしね。なんか暑気払いにちょうどいいじゃんね。ぱあっと、やなこと忘れてさ、出直しだよ。


(26)

ほんとうに、ほんとうにありがとうございます。こんなにたくさんのかたが、私たちミミフラの歌を一生懸命聴いてくださって、涙がでてきそうです。みなさんのおかげで、とても楽しいクリスマスイブになりました。外をごらんになってください。ちょうどハラハラと雪が降ってきました。なにやら今宵が、特別な日のように思えてしかたありません。

人生は、いつなんどき、なにが起こるかわかりません。出会いもまたしかりです。耳なしフランケンさんの、今回の選挙違反がなければ、こうしてみなさんと一緒にクリスマスをお祝いすることもなかったことでしょう。耳なしフランケンさん、私とマロンは三ノ輪駅で懸命に演説するあなたの姿を遠くに眺めながら、縮めたら耳フラね、私たちミミフラと同じねと、なんだか近しい気持ちを持っていたのですよ。

そうです。みなさんご存知のように、私もマロンも、順風にいままで来たわけではありません。もちろん私のほうがいろいろありました。いっときの人気に自分を忘れ、傲慢になりました。お酒と麻薬に溺れた時期もありました。大切なひともたくさん、私たちのまえからいなくなっていきました。好きだったひとにもだまされ、多額の借金を背負いこみ、何十年もかかって返済してきました。

こうして振り返ると失敗ばかりの人生だったなと思います。けれどなぜだか後悔はしていないのです。ひとは間違えるもの、失敗するもの、ズルをしてしまうものだということが、頭ではなく、身体でわかってきたからでしょうか。

そんな私たちミミフラの歌人生に、ぴったりの曲を最後に歌わせていただいて、今宵はお別れいたします。新しいおじさん作詞、富岡のぼる作曲『これからの』。こんな私たちですが、みなさんとともに、どうか神のご加護がありますように。メリークリスマス!

聴いてください。


(最終回)

拝啓 ホノルルマスター様

時が経つのは早いもので、あのクリスマスコンサートから三ヶ月が経ちました。おじさんはこの手紙を、広野町の宿舎で書いています。

ケンちゃんも一緒で、いまも横でスマホいじってヘースブックしています。キクちゃんは同じ広野町のスナックで働いています。そうそう、耳なしフランケンもすぐ近くの宿舎にいるんですよ。それと、田所さんもここから少し離れたいわき市で作業員の世話をしています。

年が明けてから、おじさんたちは皆、田所さんの斡旋で、福島第一原発で元気に働いています。おじさんとケンちゃんは、大きなタンクを作る現場に配属されました。耳なしフランケンは、そのタンクから水漏れしてないかを見回る仕事をしています。朝がはやいのと、原発まで遠いのと、寒いのがあれですが、なんとか楽しくやってます。

山谷のみんなは元気にしてますか?マスターは風邪なんかひいてないですか?マスターもこっちに来て、お店やればいいのに。飲み屋さんはどこも忙しいみたいで、キクちゃんもあの体格でフーフーいってますよ。

放射能がどうのなんていうひともいるけど、そんなものなんてことありません。東京にいたときのほうが、もっとひどいものを浴びてたように思います。

給料も結構いいので、ケンちゃんと耳なしフランケンとよく飲みにいきます。キクちゃんが働いている「アラモアナ」というお店です。意味はわからないですけど「アナ」っていうと、かんちがいする作業員もいて、けっこう繁盛してますよ。

「アラモアナ」の、ちょっといったところの奥まった路地に、古びた電話ボックスがあります。もうだれも使うひとがいないみたいで、ひっそりとして汚いです。このあいだ、酔っ払って、懐かしくて、寒かったこともあって、中にはいってみました。そうしたら、ピンクチラシがところ一面たくさん貼られていました。

「ロリータから人妻まで、あなたのとの出会いをムッチリさせたいのです!衝撃価格七十分一万七千円!」って、これおじさんがよく貼ってたやつじゃないですか。あっこれもそう「未亡人倶楽部」。懐かしいなあ、一枚はがすとマッチ売りの少女みたいに、あのころの思い出がポッと浮かびます。これみんな電話番号違うけど、みんな田所さんの事務所にかかるんだよね。そういえば、まだおじさんにも、家族がいたころだな。娘のみどりはどうしてるかな。もう結婚して子供もいるんだろうな。あの頃にもどりたいな。そう思ってもう一枚ピンクチラシをはがします。そしたらほんとうに自分のことが嫌になる自分があらわれて、電話ボックスからでてきちゃいました。

雪がこんこんと降っています。雪が降ると音がなくなって、おじさんは暗い路地にただひとり、ぽつねんと泣きました。泣きながら電話ボックスを振り返ると、それはあたかも小型ロケットのようでした。ピンクチラシをはがしていくと、カウントダウンがはじまります。テン、ナイン、エイト、セブン・・。懸命にチラシをはがしていきます。「現役女子高生のみ!」「上海美人」「昭和路上エレジー」。そして最後の一枚!

新しいおじさんは発射しました。どこにたどり着くのやら、よたかの星になるのか、それとも下谷町の電話ボックスに舞い降りるか、それはわからないのです。

あっ、また地震がありました。でも大丈夫です。マスター、くれぐれもお元気で。ごきげんよう、さようなら。

新しいおじさん

写真:Michikawamixa