◎『ギター弾き』

ギター弾きに恋なんかしちゃだめだよ

どんなことになるか、歴史が教えてくれるさ

歴史を知らないって?

別にそんな昔の話じゃないよ

それはついこのあいだのことじゃないか

ろくでもないギター弾きを好きになった麻子のことだよ

いいように、弾かれるだけ弾かれて

その音色を試したらポイさ

ギター弾きはいつだって新しいギターを欲しがるんだ

ちょっと見た目がいいだけの

ろくにまともな音なんかしやしない

でもさ

それが可愛いんだとさ

だから彼奴はいつまでたっても三流以下

場末のクラブがお似合いだ

そんなギター弾きに恋なんかしちゃいけないよ

あたいみたいになるだけさ



◎『マジソンバッグ』

若いころはさ、アメリカにあこがれてね

いってみたいなって

よくおもってた

あんたいったことあるだって

アメリカ

マジソンスクエアガーデンはどうだった?


あたいらがちゅー坊だったころはさ

マジソンバッグっていうのが流行ってね

こんなくらいの手提げでさ

半月を横にしたかたちをして

マジソンバッグにはなんでもはいるんだ

教科書も上履きも体操着も

それに弁当までいれてね


ゆうがたの土手

まんまるになったマジソンバッグを

ぐるぐるまわして帰ったものさ

すごいバッグだったよ


擦れた紺色のうえに

白い文字で書いてあるんだ

MADISON SQUERE GARDEN

どんなところだろう

おとなになったらぜったいいこうって

MADISON SQUERE GARDEN

写真を撮るんだって

アメリカ

いってみたかったな


あんたいったんだろ?

アメリカ

話きかせてよ

MADISON SQUERE GARDEN


知らないって?

なにさ

話になりゃしないな



◎『オッコ』

オッコのこと話したっけ?

ガキのころだよ

夕暮れどきの商店街を

オッコはよくふらふら歩いてた

ちょっとアタマがよわいおっさんでさ

退屈だらけのあたいたちはさ

オッコ、オッコって

からかってた


オッコ、オッコー

なにやってんだよ

オッコ、オッコー

チャックがおりてるぞ

そうやって離れたところから

はやすんだ


いつもはあたいらのことなんか

知らんぷりしてたオッコだけど

その日だけはすごくおこってた

あたいらをぎゅっとにらんでね

こっちもむきになって叫んださ


オッコ、オッコー

なにやってんだよ

オッコ、オッコー

くやしかったらこっちこい


オッコはさ

目のまえにあった大根をつかんで

すごいかおして走ってきた

あたいら、うわって逃げた


そのうしろから八百屋のあんちゃんが

「大根ドロボー!」

って、追いかけてくるんだ


鬼ごっこってさ

遊びじゃつまらないだろ

いくらガキでもさ

遊びってわかっちゃったら

つまんないんだよ


あたいさ、ババアになってよかったって思う

おっぱいこんなになっちゃったけど

ババアになれてよかった

ババアになってさ

やっとわかることってあるんだよ


こうやって焼酎飲みながら

ときどきオッコのこと思い出して

オッコ、ごめんなって

あやまるんだ

あたいら野良犬みたいなガキだったから

わからなかった

オッコ、ごめんなって

それだけいいたかった


八百屋のあんちゃんもさ

大根がどうのじゃなくてさ

あたいらやオッコのこと

心配して追いかけてくれたんだって


ババアになるまで

そんなことすらわからなかった

ババアになってよかったよ

◎『ねえ、あんた』

ねえねえ、ちょっと

『ねえあんた』って歌、知ってる?

ちあきなおみ

黒いふちどりがあるやつじゃないよ

あれは『喝采』

『ねえあんた』はね

すっごくいい歌なんだ

語りなんだよ

「ねえあんた

なんかとってあげようか」

ってね

いろっぽい目でそういうんだ

あんたのことをさ

惚れたおんながいてね

その女がいつもとは

ちょっとだけちがった顔で

「ねえ、あんた」

っていってきたらさ

そのときはあんた

覚悟したほうがいいよ

はらくくるっていうのかな

この男でいくって

その女はそう決めたんだから

「ねえ、あんた」

いつもとちがった声のつや

だからさそんなときは

生半可な返事しちゃいけないよ

はぐらかすのか

さもなきゃ

だまってぐっと抱きよせな

そしたらさ

女はたいがいのことは許すよ

あんたがよそにいいひとつくっても

じっと帰りを待ってるよ

だけどね

「ねえ、あんた」

やっちゃいけないことが

ふたつだけあるんだ

なにかって?

よく考えなよ

やっちゃいけないことが

ふたつある

「ねえ、あんた」

そんな契りもわからない

野暮な野郎はさ

ちょんぎられたって

文句はいえないんだよ


◎『おはようおやすみ』

ん、なに?

あれ、あたい寝ちゃってたの?

ごめん、ごめん

お水ね、あんがと

ここにいた若いおふたりさんは?

とっくに帰ったんだね

そりゃそうだ

店もおしまいだ

マスター、いつもわるいね

あれ、麻子

心配して迎えにきてくれたんだね

サンキュ、サンキュ

だいじょうぶだよ

ほらこのとおりしっかりしてるさ

もう一軒いこうか

そりゃそうだ

もうすぐ夜も明ける

麻子、ずいぶん手間かけたね

じゃあ、マスター

またあした

生きてたらお目にかかろうぞ

おやすみおはよう

おはようおやすみ

若いあのふたり

あたい、なんかへんなこと

言ったかな?

ねえ、麻子

あのギター弾きだけはやめときなよ

こっち、こっち

角をまがるとさ

MADISON SQUAREがみえるだろ?

なにもないって?

そりゃそうだ

あたいにしかみえやしない

みんな、ほんとにありがとね

もう一軒いこうか

そりゃそうだ

もうすぐ夜も明ける

麻子、ずいぶん手間かけたね

みんな、ほんとにありがとね

おやすみおはよう

おはようおやすみ

おやすみおはよう

おはようおやすみ